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福建省 陳学[木梁]
「新詩体創作手法小議」 日譯 小畑旭翠
福建省 陳学[木梁]
「新詩体創作手法小議」 日譯 小畑旭翠
寄稿第一號
この程 中国福建省陳学○(木+梁)先生より『新詩体創作手法小議』が主宰中山栄造先生に寄せられました。予てより「新短詩」の提案は中国詩壇の認めるところであり、その作品は『詩刊』やホームページ『海天吟鴻』に数多く掲載されております。しかし新短詩そのものに対しての中国側による本格的批評・論文は少なく葛飾吟社会員はもとより日本漢詩詞壇に与える影響も少なからず有るものと考え日本語訳を試みました。 (2003年5月4日)
新詩体創作手法小議
福建省 陳学[木梁]
はじめに
中国の詩詞の源は遠く、その歴史は長く、多くの詩詞名作の外に、多くの詩話、詞話、曲話、聯話という詩詞評論文章があります。曄、坤、偲、瀛の新詩体は一つの詩歌であり、その評論或いは専門論文が有って然るべきであります。中山栄造先生の『漢字文化圏通用詩歌』の提案内容そのものが新詩体の詩話であり、『曄坤偲瀛詩刊』創刊号中で今田述先生の「曄歌寸評」、『新短詩 研討会』新短詩特集中の「詩形の共有が意味するもの」など新短詩の創作主張に関する文章は全て詩話の列に入っております。それらは"新詩体"の創作をリードする積極的役割を果しているのであります。
新詩体創始者の中山栄造先生の著書『漢字文化圏通用詩歌』と日本葛飾吟社編集の『曄坤偲瀛詩刊』第一と第二号を読んで私は裨益する処少なくなく、実り多いものであります。同時に新詩体、その新しく生まれたものに対して多角的視座から理解し、しかも其の上その要点を多くの新詩体作者に伝えなければならないことを痛感いたします。
第一講
新詩体創作手法小議 其の一
主題−新詩体は日本的詩味が要求される−
世中の全ての物事は簡より繁へ、初歩より上級へと言う発展過程がある。新詩体が詩歌の新スタイル(新体裁)としても必ずこの法則に従がわねばならぬ。『新短詩研討会』特集9頁に書かれてある「この詩歌の形は漢字詩歌の一種である(注 伝統的漢字詩歌ではない)其れは日本詩歌作品と同じものを作り出すことが出来ないし、かつそれは今まであらゆる漢詩詞より日本詩歌に近い。」 新詩体 曄坤偲瀛 は中国詩歌では無くまた日本詩歌でもない。
それは中日詩歌文化の複合体と言える、つまり漢字を用いて書いた日本詩歌であります。この類の新詩体は中日両国詩歌の合理的要素を含んでいる。この「双料(二種の在料をミックスしたもの)」の特性は創作した新詩体作品を先ず両国の読者が翻訳なしで良く読みこなすことを必須と決めていることであり、これは最低の要求であります。
中国の詩歌は平仄と押韻に拘ります。日本の詩歌はこの定めがありません。ですから「曄坤偲瀛」の新詩体を世に送り出す初期段階では中国の作者が平仄に拘らず韻を踏まず日本の詩味を持つ新詩体を許すべきであろう。(実際上それを認めているが、創作要求の中では明確に記してはいない)但しこれには一つの前提があります。
それは必ず日本の読者が日本の詩歌表現方法の基本に合致して書かれたと認めるものでなければいけないでしょう。つまり「日本的詩味」があると言うことです。中山栄造先生の『漢字文化圏通用詩歌』23頁に「押韻は中国人はした方がよい、日本人は其の限りではない。(押韻以中国人為宜,日本人自決不限。)」この要求(規則)は新短詩を作る上での必要条件でありますが絶対条件ではない。ですから新詩体の平仄押韻規則に対しては「日中に関らず,中国人は平仄押韻を重んじてもよし但し無理には要求しない。」と理解しても宜しいのではなかろうか。
寄稿第二號
新詩体創作手法小議 其の二
主題 新詩体の創作には"神"(精神・こころ)・"形"(形式・かたち)・"衣"(表現手法)の完璧な結合を追究すべきであること日本人の作った新詩体の作品は日本人作者の思惟の反映である。この思惟は日本の作者が俳句など詩歌を創作する時の考え方と同じものでありこれは日本民族としての考え方・習慣、すなわち文化特性と文字表現方法を新詩体という体裁(スタイル)を通じて表わしたものに他なりません。
ここで表現する思想・文化の伝達を新詩体の"神"(精神・こころ)とし、新詩体 曄坤偲瀛の名称と内容規定・創作方式の規定(季語の如き)・字数の限定、これは新詩体の"形"(形式・かたち)であり、漢字は新詩体の"衣裳"(表現方法)であろう。日本語的漢字の表現で新詩体を書くと、つまり漢字の衣裳を着ても和装となっているので中国の読者は日本詩歌とのみ知るだけで新詩体の作品が何を表現しているのか理解できない。これは丁度日本詩歌の生地のままの一山のような物であって、仕立てられた一着の衣服とは言い難いのであります。
中国の漢字を用いて新詩体を書くことにより、日中両国の読者は作品の表現し得た内容が理解できるのです。漢字文化圏の各民族は即ちこのような"衣裳"のスタイル色合いを通じて新詩体の"形"(かたち)と"神"(こころ)を真に理解できるのであります。優秀な新詩体の作品は"神"(こころ)と"形"(かたち)と"衣"(表現方法=漢字)が欠点なく完璧に結合すべきであります。
ここに至って新詩体は漢字で書かれた日本詩歌であり、正に日本文学の芸術作品たるものであって、中国漢字の外套を着せて国際交流を実現させたと言えるものでありましょう。
第三講
新詩体創作手法小議 其の三
主題 新詩体の押韻について
『漢字文化圏通用詩歌』第23頁 "四体統一在内容断句的句尾押韻"(韻位は四体共通で、意味上の末字とする)と規定してあり押韻について韻位の要求がある。私は"句句末尾処都押韻"(句句の末尾の全ての処に押韻できる)と理解している。
何故ならば、句毎に一つの内容の断句が作り得るからであります。瀛歌の5句の形式を分析してみると下記の通りである。
1. 一句各一個の内容,合わせて5個の内容で5個の断句。
2. 3句+2句或いは2句+3句,合わせて2個の内容で2個の断句。
3. 4句+1句或いは1句+4句,合わせて2個の内容で2個の断句。
4. 2句+2句+1句或いは1句+2句+2句或いは2句+1句+2句,合わせて3個の内容で3個の断句。
5. 5句で1個の内容で合わせても1個の内容。
したがって、"内容断句"(意味上の末尾)で韻位即ち韻の場所を決めるのは一種の融通のきく方式であるがあまり融通し過ると規則が無くなってしまうのではなかろうか。以上の分析はロジック的推断であり、5句が只一つの内容を表し或いは毎句全て一つ一つの内容を表す作例はありません。
断句に対しての要求は『漢字文化圏通用詩歌』22頁に"従内容需要出発,在規定総字数的範囲内,断句処可機動変化"(内容表現の必要から,決められた漢字の総数の範囲にて,適宜句の文字数を変えることが出来る)とあります。
例えば "痩青蛙,莫退一茶,在這里"。この三句は"三四三"の形式であるが、これは "痩青蛙,莫退,一茶這里"正に句は"三二五"の形式にもなる。上に述べたこの例は断句(字数)の規定には符合するが"三四三"の句の規定には合致しない。また韻位の約束事とも矛盾が生じます。
"押韻以中国人為宜"(押韻は中国人はした方がよい)との規定がある以上は中国人の創作習慣に配慮すべきでありましよう。ここで句式によって韻位を規定することを建議し、この場を借りて以下8種の格式(パターン)を提案いたします。
(▲印は韻位を示し,平韻 仄韻どちらでも押韻可能。例題作品は何れも『曄坤瀛偲詩刊』より自撰のもの)
曄歌、坤歌
(1) 愛雛鴉(▲) 羽豊反哺 不忘家(▲)
東山暁(▲) 啼鳥声声 帰夢渺(▲)
(2) 嬌如許 小家碧玉(▲) 玲瓏足(▲)
新詩体 曄坤瀛偲(▲) 平民詩(▲)
偲歌
(3) 中山栄造 詩芸獨標(▲) 日漢圏通 楽逍遥(▲)
(4) 三浦半島(▲)風景獨好(▲) 遊太平洋 愁忘了(▲)
瀛歌
(5) 古人曰 無病是福(▲)最苦是 依門扶節 残年風燭(▲)
(6) 桂花香(▲) 問訊呉剛(▲)幾時醸 小酌之時 叫声□娘(▲)
(7) 恵風吹(▲) 紫荊爛漫 彩霞飛(▲) 四海歓慶 香港回帰(▲)
(8) 有食之 中秋浩月(▲)古難全 陰晴円缺(▲)勿傷胡越(▲)
新詩体創手法小議 其の四
主題 新詩体の平仄について
福建省 陳 学[木梁]
日訳 千葉県 小畑旭翠
『漢字文化圏通用詩歌』第22頁に“平仄日中均不限”(平仄は日中自由)と書かれてありますが、私は二つの意味があると理解しております。
その一つは平仄に拘だわらなくても良い、もう一つは平仄を重要視しても良いとの謂いであります。
中国の詩人にとってはご承知の平仄を重んじる詩歌創作の古来よりの習慣があり、中国人が新詩体の創作に当たって、もし詩詞の平仄原則に従って作るならばそれは寛容に扱うべきであると思うし、それには対聯の平仄原則を採用いたして良いのではないだろうか。
新詩体の作品のそれぞれは、平仄原則上では対聯の上聯・下聯を参考にして作れば良い、平で終わるも仄で終わるのも全て可、三字句で1字2字は平仄不論、四字句では1字3字が平仄不論 (平でも仄でもかまわない)であるが、三仄尾(句末仄三連)三平尾(句末平三連)は忌むべきである。
“曄坤瀛偲”新詩体の平仄の原則について48式(パターン)を列挙して中国新詩体作者の参考に供したい。例として挙げた作品は『漢字文化圏通用詩歌』、『曄坤瀛偲 詩刊 』より自選した。個々の字について平仄の原則により改めたところがある*。
訳者注:
以下、陳先生が示す平仄のパターンと例示された作品の平仄が必ずしも一致していない場合がある。これは、一連の作品が、「“曄坤瀛偲”新詩体は必ずしも平仄を考慮しなくともよい」とする考えのもとに書かれているのに対し、陳先生の論考は、仮に平仄を考慮して書くならどのような平仄になるかという理念的な型を示そうとしているためである。上記「個々の字について平仄の原則により改めたところがある」というのは、作品の字義ではなく、平仄を改めたという意味である。
曄歌、坤歌
(一) 仄起仄収
1、○○● ○○●● ○●●
新婚楽 飯卓台下 脚換脚
2、○○● ●●○○ ○○●
嵐山翠 烟雨蒼茫 凝神望
(二)平起仄収
3、○○● ○○○● ●●○
成人楽 衣裳華麗 就業難
4、○○● ●●○○ ●○○
梧桐葉 瑟瑟翻飛 作冬衣
(三)平起平収
5、●●○ ●●○○ ●●○
九子峰 松緑楓紅 聳碧空
6、●●○ ○○●● ●○○
秋竹疎 朔風寒雨 節如初
(四)平起仄収
7、●○○ ○○●● ●○●
古池塘 青蛙躍入 水声響
8、○●○ ●●○○ ○○●
才女妻 多有不能 吃焦飯
偲 歌
( 一) 仄起仄収
5、○○●● ●●○○ ●●○○ ○○●
村頭分手 無語泪流 最是難堪 頻回首
6、○○●● ○○●● ●●○○ ○●●
郎才女貌 忌生高傲 互愛互幇 方可靠
7、○○●● ○○●● ○○●● ○●●
暮雲春樹 人帰何処 暁鶏驚夢 留不在
8、○○●● ●●○○ ○○●● ○○●
紅黄朶朶 蝶恋花芯 風揺枝動 点難定
(二)平起仄収
9、●●○○ ●●○○ ●●○○ ○○●
落日艶紅 恩愛情濃 老樹新花 斜輝映
10、●●○○ ○○●● ●●○○ ○○●
少小情絲 春光已逝 相忘却難 長相憶
11、●●○○ ○○●● ○○●● ○●●
携手并肩 情真意切 商籌婚礼 度蜜月
12、●●○○ ●●○○ ○○●● ○●●
錦字書成 不見雁帰 依依待駅 空悵□ □=[目分]
(三) 仄起平収
13、○○●● ●●○○ ●●○○ ●●○
麗人北渡 意冷身孤 多謝麟鴻 両地書
14、○○●● ○○●● ●●○○ ●○○
返家遠客 窓花共剪 夜半未眠 訓冤家
15、○○●● ●●○○ ○○●● ●○○
燈孤夜涜 竹影揺窓 離愁別緒 夜闌長
16、○○●● ●●○○ ○○●● ●○○
東瀛把盞 南国淘金 青梅竹馬 淡如雲
(四) 平起平収
17、●●○○ ●●○○ ●●○○ ●○○
楽府胡笳 大漠琵琶 青冢恨遺 恨無涯
18、●●○○ ○○●● ○●○○ ●○○
情理有情 琵琶別抱 形只影単 泪双行
19、●●○○ ○○●● ○○●● ●○○
小艇揺揺 夫妻同渡 水花四濺 楽逍遥
20、●●○○ ●●○○ ○○●● ●●○
少女弄嬌 笑罵草包 指敲郎額 帯笑逃
瀛歌
(一) 仄起仄収
21、○●● ●●○○ ●●○ ○○●● ○○●●
小院靜 蟲醒長鳴 新月彎 浅斟低唱 流星飛逝
22、○○● ●●○○ ●○○ ●●○○ ○○●●
神州美 華夏子孫 喜揚眉 引亢高歌 壮哉祖国
23、○●● ○○●● ●○○ ○○●● ○○●●
假日里 河邊垂釣 楽忘懐 空帰口哨 夫人気悩
24、○○● ○○●● ●●○ ●●○○) ○○●●
隔海峙 崑崙富士 一水牽 兄弟温情 詩詞共詠
25、○●● ●●○○ ●●○ ●●○○ ○○●●)
鄙世俗 翠袖長舒 楚楚姿 賜舎清香 不争栄禄
26、○●● ●●○○ ●●○ ○○●● ○○●●
長短句 独創新詩 平仄無 通行漢字 歌声四起
27、○●● ○○●● ●○○ ●●○○ ○○●●
提案好 中山栄造 少而精 旨意明瞭 月華朗照
28、●○● ●●○○ ●●○ ○○●● ○○●●
丑牛去 萬戸千門 虎歳迎 鶯歌燕舞 屠蘇共酔
(二) 仄起平収
29、○○● ●●○○ ○●○ ●●○○ ●●○○
夜深靜 獨自出神 疑用功 非酔非痴 苦学詩翁
30、○●● ●●○○ ●○○ ○○●● ●●○○)
大理美 玉□銀蒼 好風光 風花雪月 古跡琳琅
□=水( サンズイ)+耳
31、○○● ○○●● ●●○ ●●○○ ●●○○
水泥地 一條裂縫 裂縫間 春末一枝 破土而生
32、○○● ●●○○ ○●● ○○●● ●●○○
研討会 衆聚春城 吉艶秀 華言標準 神態翩翩
33、○○● ○○●● ●●○ ○○●● ●●○○
湘潭県 韶山冲里 上屋場 升起巨星 大放光芒
34、○●● ○○●● ○●○ ○○●● ●●○○
十五大 承前啓後 新紀元 乗風破浪 継往開来
35、○○● ○○●● ●○○ ○○●● ●●○○
長城望 綿延万里 踏雄関 古今光景 有喜有憂
36、○○● ○○●● ●●○ ○○●● ●●○○
新詩体 四三五句 易写成 好聴好記 老少喜歓
(三) 平起仄収
37、●○○ ○○▲● ○○● ○○●● ○○●●
立交橋 縦横交錯 往来急 萬車奔掣 各行其道
38、●○○ ○○●● ○○● ●●○○ ○○●●
望天邊 秦時皓月 聴楼鼓 鼓打三更 伊人不見
39、●○○ ●●○○ ○●● ●●○○ ○○●●
沁香風 春色満園 関不住 紅杏一枝 風流万里
40、○●○ ●●○○ ○○● ○○●● ○○●●
丁丑年 香港回帰 中華楽 和平創挙 普天同慶
41、●○○ ●●○○ ○●● ○○●● ○○●●
夜無眠 空対紗窓 思萬縷 陰晴円缺 人生畫巻
42、●○○ ○○●● ○○● ●●○○ ○○●●
漢詩家 中山栄造 新声譜 体式精厳 騒壇賛絶
43、○●○ ●●○○ ○●● ●●○○ ○○●●
霜染楓 萬嶺通紅 映翠柏 鬱鬱葱葱 詩揚碧落
44、●●○ ○○●● ○●● ○○●● ○○●●
富士山 東瀛勝地 風景美 温泉瀑布 休閑遊渡
(四) 平起平収
45、●○○ ○○●● ○○● ●●○○ ●●○○
日中交 一衣帯水 双魚托 投信想君 我意未疏
46、○●○ ○○●● ○●● ●○●● ●●○○
山水連 往来方便 都希望 日中友好 萬代相傳
47、●○○ ●●○○ ○●● ●●○○ ●●○○
彩虹横 故弄玄虚 絲素白 近墨者黒 近赤者紅
48、○○○ ●●○○ ●●● ○○●● ●●○○
湯河原 雲月山荘 賛熱海 鐘霊毓秀 四季芬芬
49、●●○ ○○●● ○●● ●●○○ ●●○○
孤老頭 一夫察察 心一寸 為国為民 勇献独苗
50、●○○ ○○●● ○●● ○○●● ●●○○
水流東 青山一例 吹落葉 紛紛思緒 何去何従
51、●○○ ●●○○ ○●● ○○●● ●●○○
興悠悠 四野金秋 舒遠目 少年有志 更上層楼
52、○○● ●●○○ ●○● ●●○○ ●●○○
春光娟 藝苑花繁 一株雅 坤曄瀛偲 四海情聯
承前 新詩体創作手法小義 其の五
福建省 陳 学[木梁]
日本語譯 小畑旭翠
主題 新詩体の表現方法
『漢字文化圏通用詩歌』第3頁に「日本の詩歌は(中国詩歌に対して)先ず文字が相違し、更に格律は原則として文字数音数律のみで成り立つ、 (中略) 中国詩歌は表意文字の特徴から物事を大きく捉えてこれを凝縮させ、日本の詩歌は表音文字の特徴から物事を小さく捉えてこれを拡散(放射)させるなどの相異点がある。」
この一段の内容は日中両国の詩歌創作方法の区別を表しており、創作に至る思惟(考え方)方向の違いを優れて概括し判断しているものである。
『曄坤偲瀛 詩刊』第75頁「漢字文化圏通用詩歌」補記で中山栄造先生は次のように言っております。
「日本詩歌において少ない文字で多くの内容を表現することが出来たのは
一つには、内容を予め限定していること。
二つには、包容量が大きい単語(詞語)を使用したこと。
三つには、"余白"を作ったこと。
まさに大量の想像空間を読者に与え、この三方面から巧に工夫した詞章により独自の特色を形成したのである。」 又、「各種の詩歌形式は内容から決められた範疇があり、人々がこれらの作品を読む時、文字上に表現された内容を理解するだけではなく、同時にまた文字面に表現されないものを理解するのであります。」
さらに「日本詩歌は一首の詩の中において完璧な語句の追求をせず、また完璧な内容をも求めないことにより出来るだけ読者に更に多くの連想を与えているのであります。」
つまり言い換えますと、一首の中国詩歌創作には大量の素材を用いて、博引傍証の上、一個の中心思想(中心主題)に従って作者の豊な感情を表現します。その思惟方式は求心的思惟であり焦点(主題の)を絞り込もうとするものであります。(具有聚焦性)一首の日本詩歌の創作は、単純にして凝縮型であり、詩中の消息(情報)により連想を働かせて作者の一つの思想(主題)を表現するのであります。この思惟方式は一点より周囲に放射される特性、即ち放射性を表しております。(輻射特性)
完成された一首の新詩体作品から言うと、事物(ものごと)或いは事態(ありさま)の森羅万象ことごとく有るべくしてある存在(可能的存在)や、其の中の有るべくしてあった結果の一つの存在形式或いはその結果(存在結果的其中一種存在形式或結果)を作品に表現なし得たものでありましょう。表現方法の基本は 原因・条件(過程)・結果 に順序づけされる。試みに新詩体の日本的表現方式を以下の例により挙げてみましょう。(作例は『曄坤偲瀛 詩刊』より引用)
新詩体の日本的表現方法事例
1.曄歌、坤歌
(1)事物或状態 物事あるいは物事の状態 |
(2)表象及所展示的情況 イメージ及び表現した形の情況 |
(3)一種可能的結果 (1)と(2)を受けたところのある種の結果 |
柳吐緑 成人歓 散香臍 蝉脱殻 花離枝 牽牛花 秋竹疎 高価生 詩人楽 新詩体 |
東瀛書到 衣裳華麗 嬌情難却 傍依枯葉 門前冷落 依籬上爬 朔風寒雨 学費萬元 以文会友 中日友好 |
新詩体 就業難 酔如泥 風巻遂 園城寺 逞嬌葩 節如初 □娘難 隔海歌 共学習 |
2.偲歌
(1) 事物或状態 物事或いは物事の状態 |
(2) 表象及所展示的情況 イメージ及び表現した形の情況 |
(3) 一種可能的情況 (1)と(2)を受けたところのある種の結果 |
遠客返家 新郎新娘 人言前縁 倩影雙雙 佳節重陽 七夕橋上 相対無語 壊團扇 形只影単 阿哥阿妹 少女弄嬌 |
共剪窓花 鬢発如霜 児女@扶 含羞含情 衣香裙緑 語声細細 柿紅菊黄 天催人老 両情依依 但分東西 月朗星希 花影迷離 常侍旁君 久名不聞 情中有情 泪雙行 和風微微 細雨霏霏 手点朗額 罵朗草包 @=[手+讒-言] |
三更未眠 君冤家 入洞房 破鏡重円 鬼神呆 話前程 何憂傷 竟無語 酔夢里 到秋無用 琵琵別抱 踏春帰 含笑逃 |
3.瀛歌
(1) 事物或状態 物事或いは物事の状態 |
(2) 表象及所展示的情況 イメージ及び表現した形の情況 |
(3) 一種可能的情況 (1)と(2)を受けたところのある種の結果 |
長短句 千萬恨 人世路 夜蚊子 新婦下厨 慈母在 慈母逝 幼児園 近中秋 人已靜 辞官庁 |
無平仄 漢字地域 日月推移 失年華 幾条曲折 莫彷徨 隔帳AA 幾多難 手脚乱 草屋依旧 稚語甜甜 聞琴起舞 会吟儔 月好如勾 夜半三更 読詩文 民営屈尊 莫蹉□ A=口+合+羽 B=足+它 |
独創新体 歌声四起 老樹新芽 文筆生花 過了険処 便是康荘 帳中人 新詩朗朗 小姑指点 多加葱蒜 還郷情暖 客心凄楚 似蝶翩翩 潤心田 東瀛来客 情濃于酒 妙処欲笑 不敢出声 幾番退職 私財萬車 |