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対句

 律詩は唐の時代に完成した中国の格律詩(定型詩)の代表的詩形です。律詩を多く詠むのが、漢詩上達の早道といわれています。ところが現在の漢詩学習者は、絶句を作るのが普通で律詩を詠む人は少ないようです。律詩をやることで身に付くのは対句の技巧です。

 対句とは何でしょうか。中国の現代の言語学者魯宝元は『中国語と中国文化』の中で、「中国人は言語の使用面でずっと対称の美を重視し、古代の詩文の中に見られるように、対句をよく使う。つまり字を巧みに配置して、音節の数を同数にし、声調の高低を調和させ、そこに形式のそろった対称的な二つの句を用いて、密接に関連のある意味を表すのである。その後、こういう対句の形式は民俗の中にも入ってきて対聯duilianという言語芸術を形成した。」と述べています。対句もまた音声的趣向の産物なのです。

 中国は太陽暦を採用しても、正月行事は昔通り「春節」として旧暦に残しました。そして昔通りに桃符taofuを門口の両側に掛けます。桃は邪気を払い、鬼を避けると信じられ、曾つては桃の花の画が描かれたらしいのですが、唐末から宋初にかけてこの符録を文字で書くようになり、これが対聯の風俗となりました。農家の春聯にはこう書かれます。

  迎新春,五谷豊登,家業天天向上。
  慶佳節,六畜興旺,生活日日提高。

  また新婚家庭であれば「琴瑟和諧,同心永結。鳳凰双飛,白頭到老。」と書かれ、長寿を祈るときは「福如東海。寿比南山。」と書かれます。名所旧跡では楹聯が下げられます。黄鶴楼にはこう書かれています。

  爽気西来,雲霧掃開天地憾。
  大江東去,波濤洗尽万古愁。

  これを掛けられては詩人の出る幕がなくなるようなものです。対句の文化は生活の中に入り込んでいますが、詩人はそれを詩に高めます。対句の最高傑作を杜甫の有名な『春望』に見てみましょう。この冒頭の対句を芭蕉が『おくの細道』で使った気持ちが解ります。

  国破山河在, 国破れて 山河在り,
  城春草木深。 城春にして 草木深し。
  感時花濺涙, 時に感じて 花は涙を濺ぎ,
  恨別鳥驚心。 別れを恨みて 鳥は心を驚かす。
  烽火連三月, 烽火 三月を連り,
  家書抵萬金。 家書 萬金に抵る。
  白頭掻更短, 白頭 掻けば更に短く,
  渾欲不勝簪。 渾て簪に勝えざらんと欲す。

   この頷聯は擬人法(仮借)であり「花にも涙を濺ぎ、鳥にも心を驚かす」の読みは誤りでしょう。