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起承転合

 第17・18講と律詩について述べ、対句が重要であることも述べました。もう一つ大事なことは起承転合です。絶句でも大事なのですが、実はなかなか習得が難しい。これもむしろ律詩で学んだ方が早道であります。

 杜甫の『春望』は起承転合のお手本です。「国破山河在,城春草木深」の起聯は眼前の悲劇的風景、それを嘆く頷聯の「花の涙」と「鳥の心」は擬人法、頸聯は三ヶ月に渡った戦乱の悲劇の回顧、そして合聯の白頭を掻く現実へ戻って来ます。厳しい運命の前に詩人はただ嘆く以外はありません。しかしこの嘆きは、千年の後芭蕉の心を揺さぶりました。芭蕉が衣川の奥州三代の栄華の址を尋ねたとき「国やぶれて山河あり、城春にして草青みたりと笠うち敷きて、時の移るまで涙を落としはべりぬ」と、この起聯に縋ったことを、杜甫は予期したでしょうか。これも詩の力ですが、起承転合の構造がその力を生みました。

 大沼さんの律詩も起承転合がしっかりしています。最初が中川の夕景。第二聯出船繋場に焦点が絞られる。第三聯は詩を作るようになった本人の人生。枕山の血筋曳いたことを多少自嘲しているようにも見えます。合聯は江東の隔世の感へと続いています。

 つぎは「鮟鱇一宵詩百遺」の石倉鮟鱇先生の北京円明園の作です。世界一の庭園「円明園」が英仏連合軍の焼き討ち略奪にあってから150年が経ちました。宿怨の香港はやっと返還されました。この詩も起承転合がよく効いています。ことに転句の対聯は見事です。

  西寇砲弾摧屋梁, 西寇の砲弾 屋梁を摧き,
  圓明園址夕陽長。 圓明園址 夕陽長し。
  如今残柱無言聳, 如今の残柱 言も無く聳え,
  往日栄華帰燼荒。 往日の栄華 燼に帰して荒る。
  白首牽愁求句獨, 白首 愁を牽きて句を求むるは獨り,
  青年携手比肩雙。 青年 手を携えて肩を比ぶるは雙り。
  斜暉照映新碑刻, 斜暉照らし映えて新たに碑に刻みし,
  香港回歸詩賦強。 香港回歸 詩は賦すこと強し。

 最後は秋山北魚先生の『鴻臺』です。市川の国府台は古戦場ですが、あんな都会の片隅でこういう詩情を築けるのも起承転合の力といっていいのではないでしょうか。これも頸聯の「緬想屍屍恨,方看歳歳濤。」が過去と現在を対称させていて、優れています。

  城址稀人影, 城址は人影稀に,
  墟邱和古濠。 墟邱と古濠と。
  幽林枝葉寂, 幽林は 枝葉寂しく,
  茂苑雀鴉騒。 茂苑に 雀鴉騒ぐ。
  緬想屍屍恨, 緬かに想う 屍屍の恨みを,
  方看歳歳濤。 方に看る 歳歳の濤を。
  一条流不盡, 一条の 流れは盡きず,
  遠天彩雲高。 遠天に 彩雲高し。